特集記事
正しく恐れれば怖くない?富士山噴火のギモンと、
五感で学ぶ『山梨県富士山科学研究所』の知られざる魅力
遠くから眺めて美しく、登って感動する日本一の山・富士山。しかし、その美しい姿の裏側で、今もエネルギーを蓄え続けている「活火山」としての顔を、私たちは日頃どれくらい意識しているでしょうか?
今回は、火山の専門家であり防災のプロフェッショナルでもある、山梨県富士山科学研究所の吉本充宏さんにインタビュー!「もし噴火したらどうなるの?」という気になる疑問から、地震とは全く違う火山防災のリアル、そして実は一般の人や子どもたちも大歓迎という「富士山科学研究所」の知られざる取り組みについて、たっぷりとお話を伺いました。
身近でワクワクする富士山研究の世界を覗いてみましょう!
POINT 01
富士山はまだ10歳!?
「コーラ」の例えでわかる
火山としての仕組みと恵み
富士山が最後に噴火したのは約300年前の「宝永噴火」です。長く沈黙しているため「もう噴火しないのでは?」と思いがちですが、吉本先生は独自のライフサイクルで富士山を例えてくれました。
「火山の寿命は100万年ほど。富士山はまだ生まれて10万年なので、人間に例えると『10歳』の子どもです。そう考えると、300年噴火していないというのは、富士山からすれば『スッとちょっと息を止めているだけ』の時間なんですよ」
また、同じマグマから「流れる溶岩」や「降る火山灰・軽石」という全く違う性質のものが生まれる仕組みを、吉本先生はコーラに例えます。
「コーラを振ってフタを開けると勢いよく泡が吹き出しますよね。あの泡が固まったのが『軽石』、細かい液滴が『火山灰』です。逆に、振らないコーラは、爆発せずにトローッと流れます。これが『溶岩』です」
地層を調べることで、過去の富士山がどうやって成長してきたかが分かります。実は、今の美しい富士山の裾野があるのは、溶岩だけでなく、雨や雪によって火山灰が流される「雪代(スラッシュ雪崩)」が隙間を埋めてくれたおかげ。火山は災害をもたらす一方で、私たちが恩恵を受けている豊かな湧き水や、ラッキーな時代に見られている美しい景色そのものを作ってくれている存在なのです。
POINT 02
地震とはここが違う!
富士山から学ぶ「正しく恐れる」防災のリアル
火山防災は、突発的に起こる地震の防災とは大きく異なります。地震の被害は主に「揺れ」ですが、火山の場合は溶岩流、火砕流、泥流、噴石、火山ガスなど、内閣府のまとめだけでも「16項目」もの災害要因(ハザード)があります。それぞれ温度も違えば、時速100キロを超えるものから人間が歩くほどの速度のものまで、速さや到達距離がバラバラです。
さらに富士山の場合、山頂だけでなく両翼28キロの広い範囲の「どこから噴火するか分からない」という難しさがあります。そのため、隣の市町村の防災対策をそのまま真似することができません。山に近い街なら噴石や火砕流、遠い街なら溶岩流や火山灰など、それぞれの場所に応じたハザードを理解する必要があります。
「だからこそ、むやみに怖がったり全員が一斉に逃げたりするのではなく、『正しく恐れて理解すること』が大切です」と吉本先生。コロナ禍のときもウイルスの特徴や防御法が分かると行動の幅が広がったように、ハザードを正しく知っていればパニックにならず、最適な避難ができるようになります。
日頃から「イマフジ」のようなリアルタイムのデータや山の様子に触れ、何が起きているかを現状把握する習慣を持つことも、立派な防災アクションにつながっています。
POINT 03
実験教材から土日フリーの展示室まで!
地域とつながる、
身近な「山梨県富士山科学研究所」へ行こう
そんな富士山の火山や自然環境を日夜研究しているのが「山梨県富士山科学研究所」です。「研究所」と聞くとなんだか一般人は立ち入り禁止の堅い場所のように思えますが、実は地域の人や子どもたちに富士山を身近に感じてもらうための広報・教育活動にとても力を入れています。
吉本先生がここまで子どもたちへの教育に熱を入れるのには、自身の原体験があります。「私が小学生のとき、理科室にいつも先生がいて、どんな疑問をぶつけても必ずヒントや答えをくれたんです。それが楽しくて理科に興味を持ちました。だから今の子どもたちにも、疑問に答えてくれる大人が近くにいる楽しさを知ってほしいんです」
そのため研究所では、地元の小学生たちを招いた見学会や火山講習、実験授業を積極的に行っています。火山のことを習う小学校6年生や中学校1年生に向けて提供している独自の「実験教材」もその一つ。地形図の立体模型を使い「溶岩は水と同じで低いところに流れる。じゃあ、ここから噴火したらどこに流れるか考えてみよう」と、子どもたち自身に液体を流して試してもらう授業は、「自分たちで考えて理解できる」と学校の先生からも大好評だそうです。
そして何より、「山梨県富士山科学研究所は、一般の人も土日を含めてフリーで自由に入れる場所」だということは、意外と知られていません。館内には、鳥やシカ、火山など、それぞれの専門の先生(研究員)たちが、教育スタッフと一緒にこだわり抜いて作り上げた"お手製"の展示物がたくさん並んでいます。
「ただ見るだけでなく、気軽に足を運んで、実際に見て触れて、富士山のリアルを感じてほしい。そこから富士山をもっと好きになってもらえたら嬉しいですね」と吉本先生。本物の研究員たちがどんな風に富士山を見守っているのかを間近で体感できる、まさに富士山エリアの隠れた「知のワンダーランド」に、ぜひ遊びに行ってみてください。
コラムプロ直伝コラム:研究所を100%楽しむための見どころチェック
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1 必見!お手製の「火山灰剥ぎ取り標本」
展示室の大きな見どころが、300年前の宝永噴火の火山灰を実際の地層から剥ぎ取った本物の標本です。
火口に近い「6キロ地点では6メートル」もの厚さだった灰が、「14キロ地点で2メートル」、そして「東京では2センチ」へと、離れるにつれて粒が小さく薄くなっていく様子がひと目でわかります。火山から遠い人にも火山のリアルを実感してもらうため、研究員と教育スタッフがDIYで作ったこだわりの展示です。
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2 富士山に特化した「図書館」も併設!
研究所内には、富士山の動植物、鳥やシカの専門研究、歴史などの書籍を集めた図書館があり、こちらも土日を含めて無料で利用できます(地元の方への貸出も実施)。周りには自然を満喫できる遊歩道もあり、ガイドツアーも実施されています。
その他関連リンク
YouTubeショート動画
吉本先生からの「正しく恐れる防災」のミニメッセージを1分にまとめたショート動画を公開しています!
PROFILE
専門は火山地質学および火山防災。富士山の過去の噴火堆積物を調査・分析し、その履歴や噴火過程を解明する研究を行っている。さらに、得られた科学的データを基に、将来の噴火に備えるためのハザードマップや噴火シナリオの作成といった具体的な防災対策の策定に携わる。現在は、総理研研究「富士山防災学習カリキュラムの開発(R7-R9)」を推進中。火山専門家として、行政や地域と連携した防災体制の構築に関わる一方、次世代への教育普及活動として精力的に出張講義を行っている。NHKスペシャル『富士山大噴火 迫る"灰色の悪夢"』において火山考証(監修)を担当。そのほか、メディア出演や全国での講演を通じて、富士山火山防災の重要性を広く発信し続けている。