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地上では絶対に測れないデータを未来へ
富士山頂観測が地球科学にもたらす「奇跡の価値」

日本最高峰・富士山の頂(標高3,776m)に位置する「富士山特別地域気象観測所」。一般人の立ち入りが厳しく制限されたこの極限の地で、今年2026年に本格夏期観測開始からちょうど20年目の節目を迎えるのが「認定NPO法人富士山測候所を活用する会」です。

今回は、同会の副理事長を務め、地球物理学者として世界を舞台に活躍する静岡県立大学 特任教授の鴨川仁先生にインタビュー! 「富士山頂での雷観測のリアル」から、国に頼らず自立経営を続ける研究組織の挑戦、そして富士山のリアルタイム気象データサービス「イマフジ。」が持つ歴史的意義まで、たっぷりとお話を伺いました。

知られざる雲の上のサイエンスワールドへ、一緒に飛び込んでみましょう!

鴨川仁先生インタビュー

物理学者が過酷な富士山頂で
研究を続ける原動力

「実は私、初めて登った本格的な山が富士山だったんですよ。他の山には登ったことすらなくて、本当に富士山に特化した研究者なんです」と笑顔で語る鴨川仁先生。

富士山頂(3,776m)のような高高度では、酸素が薄く高山病で体調を崩す人が多くいます。しかし鴨川先生は「幸い高高度になっても大丈夫な体質だった。神からもらった能力ですね(笑)」と振り返ります。この高高度適性があったからこそ、20年近く過酷な現場で研究を続けてこられました。

元々は物理学者としてニュートン力学のように「未来を予測する学問」を専門としていた鴨川先生。「自然災害も物理の力で予測できるはず」という情熱のもと、雷や地震、津波、噴火などジャンルを問わず「仕組みの解明と予測」に挑み続けています。

雷雲の中に突入せよ!
足元で鳴る雷と「地球の巨大センサー」富士山

鴨川先生が富士山頂での研究に本格参入したきっかけは2008年。「雷雲から発生する静電気を測ってくれないか」と頼まれたことでした。

富士山頂は、近づく雷雲の底に直接突入できる世界でも数少ない極限スポットです。雷雲が近づくと髪の毛が逆立つような場所で測定を続けるうちにのめり込み、現在では山岳雷研究における世界的なトップランナー拠点へと成長させました。

さらに、スイスなどの有名山岳観測所より1,000m以上も標高が高い富士山は、大陸からの越境大気汚染や宇宙線、地震・火山の予兆まで捉える「地球の巨大センサー」として世界中の研究者から注目を集めています。

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富士山頂での観測風景

地上では絶対に測れない!
なぜ「富士山頂」での観測でなければならないのか?

「なぜ他の山や地上の研究室ではなく、富士山頂でなければダメなのか?」──その理由は、富士山が標高3,776mという高高度に聳え立つ『独立峰(周囲に遮る障害物がない山)』だからです。

地上の空気は地表との摩擦の影響を強く受けますが、標高約3,800mの富士山頂は、まさに地表の摩擦から解放された「自由対流圏」と呼ばれる高高度の層に位置しています。ここには、大陸から風に乗って国境を越えてやってくるPM2.5や黄砂、マイクロプラスチックなどの「越境大気汚染物質」がそのまま飛び込んできます。地上に降りてくる前の素の空気を直接キャッチして地球規模の大気循環を測定できる場所は、国内では富士山頂以外に存在しません。

さらに、ドローンや飛行機では暴風のため安全に滞留・観測できない「雷雲の内部」をセンサーが直接観測できる点や、人工衛星のデータと答え合わせをするための定点地上基地としても、富士山頂は地球科学において唯一無二の奇跡的な価値を持っています。「認定NPO法人富士山測候所を活用する会」が富士山特別地域気象観測所で観測を続ける最大の意義は、まさにこの『富士山頂でしか絶対に取れないデータ』を地球のために蓄積し続けている点にあるのです。

富士山特別地域気象観測所
  1. 1 山頂での観測トラブルを防ぐ「多機能ガジェット」と「行動食の工夫」

    鴨川先生のリュックに忍ばせてあるのは、さまざまな規格の延長ケーブルや変換コネクタ、さらには機器のアンペア数(電流)を測定するツールなどを一つにまとめたガジェットセットです。

    富士山頂で観測を行っていると、準備している以上の事が起ったりするので「必要なコードを忘れた」「機器とコネクタのサイズが合わない」といったトラブルが頻繁に起こります。さらに山頂では酸素が薄く思考力が低下するため、パーツをバラバラにせず一つに連結しておくことで紛失を防ぎ、どんな機材トラブルにも即座に対応できるようにしているのがポイント!

    また「行動食」としては特別なこだわりがあるわけではありませんが、個包装になっている市販のお菓子を持ち歩くようにしています。サッとエネルギーを補給できるだけでなく、万が一悪天候などで山頂に1泊延滞することになっても無駄にならず安心だからです。

    鴨川先生愛用のガジェット
  2. 2 山頂での研究の合間に聴く、クラシック音楽による集中力維持と気分転換

    安全確保のため「登山移動中の音楽視聴は絶対にNG」ですが、鴨川先生は山頂の「富士山特別地域気象観測所」に到着したあと、研究の合間や夜間の事務作業中にお気に入りの音楽を聴く時間を大切にしています。

    流しているのはバッハやショパンなどのクラシックピアノ曲。「富士山はオーケストラというよりソロやカルテットなどの小編成の室内楽が似合う」とのこと。
    過酷な山頂環境の中でリラックスして気分転換を図り、研究を効率よく進めるための集中力を高めるBGMは先生にとって欠かせない存在なんですね。

鴨川仁氏

鴨川 仁

Masashi Kamogawa

  • 認定NPO法人富士山測候所を活用する会 副理事長
  • 静岡県立大学 グローバル地域センター 特任教授
  • 博士(理学) / 地球物理学、自然災害予測

PROFILE

専門は地球物理学、大気電気学、自然災害予測。物理学の視点から雷、地震、津波、火山噴火などの予測・メカニズム解明に取り組む。2008年より富士山頂での観測に参加し、「認定NPO法人富士山測候所を活用する会」の副理事長として富士山特別地域気象観測所を活用した世界的な山岳雷研究拠点を構築。さらに個人プロジェクトとして「シャンパンの科学」や人工衛星開発など、多岐にわたる分野で知的好奇心あふれる研究活動と社会実装を行っている。